ほんトノトコロ

小説を中心に読書感想文を掲載します。 書評の域には達しておりませんので悪しからず。 好きな作家は江國香織、吉田修一。

寝る前に思い立って吉田修一『さよなら渓谷』を読んだ。もう5回目くらい。

吉田さんは大好きな作家なんだけどもまだレビューがなかったので読み返してレビューしていきたいと思います。



秋田で起きた児童殺害事件の畠山鈴香容疑者をモチーフにしたであろう女性がマスコミに囲まれる序盤のシーン。世間の鈴香容疑者のイメージに肉感的な部分もプラス。
この点は、僕も共感できる。その後描かれる彼女の境遇や息子の閉め出し、橋の欄干の描写などは確実に鈴香事件からインスピレーションを得たはずだ。


ただし、物語は彼女の隣人、そして彼女を追っていた記者の一人を中心に描かれる。


初めて読んだ時は、なかなか理解することができなかった主人公たちの奇跡的な繋がり。記者が漏らした「嘘だろ…」という言葉そのものだった。

でも、そんな奇跡だからこそ「私があなたの前からいなくなったら、私はあなたを許したことになる。だから私はあなたの前から消えない」という台詞やラストシーンなどが生きてくる。


吉田さんの巧みな文章は健在。ただ、物語の進行に蛇足なシーンも幾行もある。それでも全てのシーンに情景が宿り、読者にはっきりと実像として想起させる。

汗や匂い、皮膚感覚やなまめかしい肉感的な表現を用いて。とりわけ、本作では汗の描写が強調され、それが人間くささ、また男性的な印象をもたらす。映画化された『悪人』や 『パレード』よりもさらに映像を意識した作品のように感じた。


同じく禁断の逃避行をテーマにした『八日目の蝉』とは異なり、読み進めるにつれて苦しさばかりが募る。確かに明るい光は差すのだけれど、哀しく、やるせない思いが上回る。



過去に犯した罪の償い方としては『手紙』(映画)にも通じるところがある。

読む人によっては不快かと思われるかもしれないけれど、僕は何度読んでも胸が苦しくなる。

良い作品だと思います。

95点。 

映画はこちら。



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