ほんトノトコロ

小説を中心に読書感想文を掲載します。 書評の域には達しておりませんので悪しからず。 好きな作家は江國香織、吉田修一。

角田光代著『空中庭園』(文春文庫)を読了。

今月の頭に読みはじめて、えっちらおっちらと寝る前にちょびっとずつ読み進めていた。

角田さんの作品を読むのは『対岸の彼女』『人生ベストテン』 『八日目の蝉』に次いで4作目。

角田さんのタッチは非常に女性的で目線も女性のそれである。だからこそ、男にはなかなか理解しがたい細かな描写が多くて、女って難しいなと思わせる部分が少なくない。


抽象的な表現を許されるのであれば、その世界は時としてダークで、残酷で。それでいて、でも、きちんと最後には光で照らしてくれる。
毛色が違う『人生ベストテン』はともかく、『対岸の彼女』、『八日目の蝉』にははっきりと希望が見えた。




しかしながら、この『空中庭園』は最後まで光が差し込まない。びっくりするほどに、こちらの淡い期待を地味に裏切っていく。

秘密を持たず、何でもオープンに話し合うという家族のしきたりが足枷となり、逆に家族の関係をうわべだけのものにしている。
エリコ(母親)の理想型である明るい家族像とは、実は虚構でしかなく、みんなそれに気づいている。
でも、そんな虚構の明るい食卓を壊したくないからこそ、また家族の拠り所を無下にしたくないからこそ、彼等は表向き「秘密がない」ことを装い、浅い層の秘密を告白する。なかば義務的に。


この作品は家族4人、そしてコウ(息子)の家庭教師、またエリコの母親の6名の視点から章立てられている。

京橋家の家族4人が織り成すガラスの食卓は、家庭教師ミーナとエリコの母親という異質な存在の視点を介することによって、より鮮明にヒビが入っていく。

このようなテーマとタッチにおいて、リレー形式の書き方で描くことは難しかったと思う。それぞれが抱える秘密と過去は混沌としていて、すべてを繋ぎ合わせることは困難である。
ただし、解説で石田衣良氏が述べているように、各章はそれぞれの視点から上手く捉えられていて、貴史(父親)とコウの章などはまさに男性的な描き方だ。


生々しく生を描き、暗い過去と訣別するために築き上げた不自然に明るい家族の城。

この作品は、光の明度という観点で捉えるべきかと僕は思う。暗いのは忌まわしい過去か、家族に言えない秘密か、でも明るいからといってそれが全て正しいのか。

「逆オートロック」とコウが評した京橋家。そのドアの向こうの明度をあなたはどのように感じるのか、ぜひ読んでいただきたい。

映画版を鑑賞したので、少し頭をフラットにしてから読み直してみたい。
いずれにせよ、『対岸の彼女』『八日目の蝉』とは異なる読後感でした。


評価はとりあえず80点。個人的に第1、2章は大好き。

映画もどうぞ。

角田 光代
2005-07-08


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