ほんトノトコロ

小説を中心に読書感想文を掲載します。 書評の域には達しておりませんので悪しからず。 好きな作家は江國香織、吉田修一。

最近過去の凶悪事件についてお話を伺う機会があり、興味を持つと言っては何ですが、知っておいた方がいいかなと思い図書館に足を運びました。


僕が個人的に一番知りたかった北九州監禁殺人事件の書籍はなかったので、2000年の暮れに起こった世田谷一家殺人事件を検証したという本書を選択。
2013年現在も犯人は捕まっていないが、刊行されたのは07年である。


事件当時確か僕は中学1年だったけど、これは相当にショッキングな事件だったし、報道も大々的に行われた。
子供の記憶ながらに、ラグランシャツ、韓国製のテニスシューズという犯人像は明確に覚えている。


本書は遺留品と報道事実からスケボーを嗜好する若者、またラグランが念入りにアイロンがかかっていたこと、犯人の食事から野菜のおひたしや胡麻和えが予想されることから、同居人に家事をする母親なり保護者がいるのでは、と予想している。

他に興味深いのは犯人が被害者宅の近くに住むものではないかという推察。これは昼前に被害者宅から逃亡した犯人が誰にも目撃されていないことから、土地勘があり、近所に潜伏する箇所を持っていたと山元氏は述べている。


基本的に写真や図を多用し、短い章だてでわかりやすい書籍。
読者に伝達するという点では合格点。

問題は先にも述べたとおり、警察の会見、ひいては大手メディアの報道に則った内容しか著者が把握しておらず(これは山元氏も記者クラブに加盟していない自身が得られる情報は限定されると書いている)、情報量として報道記事のスクラップの域を出ないこと。

十回以上「暇があれば」被害者宅を訪れたと書いているが、刊行が2007年で5年余りの時間がありながら10回以上というのはそこまで誇れる数字なのか、疑問が残る。
取材規制があるにせよ、それを承知で周辺住民や被害者の周辺に食らいつくのがジャーナリストという職業のはず。疎まれても、糾弾されても、である。
本を書く意志があるのであれば。


ただし、この本において新事実、あるいは新論調は極めて少ない。
では、なぜ本を書いたかというと、恐らくはその前に刊行された斉藤寅氏の『侵入者たちの告白』が、その真偽はともかくとしてセンセーションを巻き起こしたことへの対抗心だろう。
この斉藤氏の書籍は未読であるが、本書ではプロローグ、エピローグにおいて痛烈に批判されている。
とりわけ、エピローグの最後の部分からはかなり山元氏の怒りが見て取れる。


要するに、勝手な思い込みで犯人像や動機、証拠をでっち上げて、警察への不信感から警察の証拠と異なる殺害状況を作り上げた。被害者と遺族の思いを踏みにじっている、というもの。


確かに本書にある斉藤本の状況証拠と警察発表の相違は明らかで、Amazonの評価でもでっち上げと評するものもあることから、斉藤本には幾ばくかの問題点があるのだろう。

警察側が捜査の妨害と主張したのも事実である。


だけども、斉藤氏への批判精神から本書を山元氏が書こうと思ったのであったとしても、それは度を越していて、事件の新事実よりも斉藤本の批判が主軸になってしまった。

事件の情報が貧しいのであれば、果たして刊行する意味はあったのか。

繰り返すが捜査資料としては読みやすい。
中身が薄くて、やや脱線したのが残念。41時間ほどで読了。

50点。


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