ほんトノトコロ

小説を中心に読書感想文を掲載します。 書評の域には達しておりませんので悪しからず。 好きな作家は江國香織、吉田修一。

おはようございます。

ケーブルテレビで山田孝之主演の映画『凶悪』を見つけ、そういえば本が家にあったなと思い返して鑑賞前に読みました。

昨秋、凶悪犯罪の書籍に凝っていたときに買っていたようです。新潮文庫。

裏表紙の紹介を引用すると、

人を殺し、その死を巧みに金に換える"先生"と呼ばれる男がいるーー雑誌記者が聞いた驚愕の証言。だが、告発者は元ヤクザで、しかも拘置所に収監中の殺人犯だった。信じていいのか?  記者は逡巡しながらも、現場を徹底的に歩き、関係者を訪ね、そして確信する。告発は本物だ!
やがて、元ヤクザと記者の追及は警察を動かし、真の"凶悪"を追い詰めてゆく。白熱の犯罪ドキュメント。


となっている。
死刑判決を受けた元暴力団組長・後藤良次が、自らの余罪を『新潮45』の記者に告白した上で、黒幕の"先生"という存在を告発していくというものである。
あらすじなどはネットにも載っているのでそちらを参照してもらいたい。

人物紹介や構成などは映画のレビューで述べたいと思う。



■ジャーナリズム

地道で丹念な取材によってあぶり出された本事件は、出版社の記者というメディアの特性上、なしえたスクープと言っていいかもしれない。

元ヤクザの後藤から上申を受けたものの、それはともすれば恣意的で作り話ととられかねないものであり、事件からも年月が経っている。しかもその告発者は死刑囚で、単なる執行までの時間稼ぎではないか…?

テレビや一般紙では誤報に対する危機管理が強く、明確な証拠をつかんでいない限りこのような段階で長期取材が求められるネタを掘り下げることはまずありえない。

スポーツ紙や多くの写真週刊誌は食いつく可能性はあるかもしれないが、人数少ない取材班の中で一つの事件を追い続けることは難しい。
この事件を担当した新潮の宮本さんがどれほど本件にかかりつけになったのかは定かではないが、出版ジャーナリズムの中でもこのような取材ができる環境、気概を持つ記者はそう多くないだろう。

センセーショナルな事件の際には現場に押し寄せ、メディア・スクラムなる害悪を振り撒くゴシップメディアだが、このドキュメントは間違いなくジャーナリズムを体現したものだと思う。

僕もメディアの末端の人間なので新聞、雑誌、個人ライターなどのざっくりとしたテリトリーはわかります。


■不気味な"先生"

後藤の記憶をたどる作業に依存するため、本書の調査過程は時として遠回りしているかもしれない。でも、それはこの本が事実を描いた証拠。理解するのに(僕は)時間がかかったけど。

その中で黒幕の"先生"なる人物は最初の章から一貫して"先生"とか"あいつ"とか"A"とか代名詞を用いて本名を出さなかった。
三上静男という名前が明かされたのはついに彼が逮捕された章である。

代名詞を使うことで"先生"に対する読者のイメージは黒仮面を被ったままで、不安感、恐怖感が掻き立てられる構成だった。

"先生"の人物描写についてはまた映画編で。



まあそれにしても読むのに時間がかかった。五章までの前半戦をもう一度読み返すくらいには難しかったし、人物や環境の相関関係を把握するのに時間がかかった。

基本的に保険金と不動産をベースにした闇の殺人事件。茨城が主な舞台となっているが、訪れたことのある町ばかりが出てきて戦慄した。



以前も同じようなことを書いた気がするけど凶悪な事件に巻き込まれるのは、一種の不運。弱みに付け込まれないように生活することはもちろんだけど、凶悪犯罪はどこに潜んでいるのかわからないものである。

闇に葬られるはずだった謎を露見したことに敬意を込めて、評価は80点。殺害方法がグロテスクでなかった分、北九州一家殺人事件よりは読みやすかったかな。



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